第4回 病院での診断と治療の選択肢:専門医に聞くべきこと
正確な診断が早期克服の第一歩!似て非なる肩の疾患を見分ける
急性期の激しい痛みを乗り切るための対処法を学んだところで、次に重要となるのが「正確な診断」です。
あなたの肩の痛みが本当に四十肩(肩関節周囲炎)なのか、あるいは治療法が全く異なる別の疾患(腱板断裂など)なのかを見極めることが、適切な治療を受け、早期に肩の動きを取り戻すための最初の、そして最も重要なステップとなります。
今回は、整形外科で行われる診断プロセスと、急性期から慢性期にかけて提示される具体的な治療の選択肢について、詳しく解説していきます。
1. 「ただの四十肩」と決めつけない!鑑別診断の重要性
「40代だから五十肩だろう」と自己判断してしまうのは危険です。肩の痛みを引き起こす疾患には、四十肩と非常に症状が似ていながら、治療法が全く異なるものがあります。専門医は、以下の疾患と鑑別するために詳細な検査を行います。
🔹 四十肩と間違えやすい主な疾患
| 疾患名 | 症状の特徴 | 治療法の違い(主なもの) |
| 腱板断裂(けんばんだんれつ) | 腕を上げるときに力が入らない。可動域制限もあるが、「自力で上げられない」ことが特徴。進行すると手術が必要になることがある。 | 腱板(インナーマッスル)の修復が治療の中心。リハビリの内容が大きく異なる。 |
| 石灰沈着性腱板炎 | ある日突然、耐えられないほどの激痛が起こる(急性発症)。石灰が原因なので、注射による吸引や溶解が必要になることがある。 | 腱の中に溜まった石灰の除去が治療の中心となる。 |
| 上腕二頭筋長頭腱炎 | 腕の前面(力こぶの腱)に限定された強い痛み。特定の動作で痛みが出るが、四十肩のような広範な拘縮は起こりにくい。 | 腱の炎症を抑える治療が中心。 |
これらの疾患は、X線(レントゲン)や超音波(エコー)検査、MRIなどの画像診断によって、四十肩とはっきりと区別されます。
2. 病院で行われる診断プロセス
整形外科では、問診から始まり、以下のようなステップで診断が行われます。
① 問診と身体所見
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痛みの性質: いつから、どのような痛みか(ズキズキ、鋭い、鈍い)。特に夜間痛の有無は重要な情報です。
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痛む動作: どの方向に腕を動かすと痛いか、日常生活で何に困っているか。
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可動域チェック: 医師や理学療法士が、患者さん自身に腕を動かしてもらう(自動運動)のと、補助して動かしてもらう(他動運動)の両方で、肩の動かせる範囲を計測します。四十肩の場合、自動運動・他動運動のどちらも制限されるのが特徴です。
② 画像診断
| 検査方法 | 特徴と得られる情報 | 四十肩の診断で重要となる点 |
| X線(レントゲン) | 骨の異常を確認する。 | 骨折や脱臼、石灰沈着の有無を確認し、四十肩以外の疾患を除外するために必須。 |
| 超音波(エコー)検査 | 腱や筋肉、滑液包の状態を確認する。手軽で即座に確認可能。 | 腱板の損傷(断裂)の有無、関節包の肥厚、滑液包の炎症などをリアルタイムで確認できる。 |
| MRI(磁気共鳴画像) | 腱板や関節包、軟部組織の状態を詳細に確認する。 | 腱板断裂や、関節包の炎症や肥厚(凍結肩)の程度を最も詳しく評価できる。 |
特に超音波検査は、最近の整形外科では普及しており、その場で腱板の状態や炎症の程度を詳しく把握できるため、診断において非常に重要な役割を果たしています。
3. 急性期・慢性期における治療の選択肢
診断が確定したら、症状の段階(急性期か慢性期か)に応じて、治療方針が決定されます。
Ⅰ. 急性期の治療(炎症・痛みのコントロール)
最もつらい時期の目標は、「炎症の鎮静」と「痛みの緩和」です。
| 治療法 | 目的と効果 |
| 薬物療法(内服・外用) | 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)で、肩の炎症と痛みを全身的に抑制します。 |
| 注射療法 | ステロイド注射やハイドロリリースなどで、炎症部位に直接アプローチし、強い痛み、特に夜間痛を早期に改善します。 |
| 装具・安静指導 | 三角巾やアームスリングで肩を固定し、無理な動きを防ぐことで、炎症の拡大を防ぎます。 |
Ⅱ. 慢性期(拘縮期)の治療(可動域の改善)
痛みが落ち着き、「肩が固まって動かせない」という状態になったら、治療の中心はリハビリテーションへと完全に移行します。
| 治療法 | 目的と効果 |
| 温熱療法 | ホットパックなどで患部を温め、血流を改善し、硬くなった組織を柔らかくして、リハビリの効果を高めます。 |
| 運動療法(リハビリ) | 理学療法士の指導のもと、固まった関節包を伸長し、可動域を広げるためのストレッチや運動を行います。無理せず段階的に行うことが重要です。 |
| 徒手授動術(じゅどうじゅつ) | 医師や理学療法士が、痛みをコントロールしながら、肩の可動域を強制的に広げる手技です。 |
4. 改善しない場合の最終手段:手術の選択肢
ほとんどの四十肩は、上記のような保存療法(手術をしない治療)で時間をかけて改善していきます。しかし、1年以上経過しても症状が改善しない「難治性の拘縮(凍結肩)」に対しては、手術が検討されることがあります。
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関節鏡視下授動術(かんせつきょうしかじゅどうじゅつ)
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方法: 関節鏡という内視鏡を使い、肩に数カ所小さな穴を開けて手術を行います。
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目的: 硬く、癒着してしまった関節包の一部を剥がしたり、切開したりして、肩の動きを物理的に解放します。
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利点: 傷が小さく、体への負担も少ないため、術後の回復も比較的早いのが特徴です。
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🗣 専門医に聞くべき3つのこと
診察を受ける際は、不安を解消し、治療に積極的に取り組むために、以下のことを専門医に質問しましょう。
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「私の病態は何ですか?」
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→ 「ただの四十肩ですか?それとも腱板断裂などの他の病気の可能性はありますか?」と尋ね、正確な診断名を確認しましょう。
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「私の肩は今、どの段階ですか?」
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→ 「急性期ですか?慢性期(拘縮期)ですか?」と確認することで、今最優先すべき対処法(安静か、リハビリか)が明確になります。
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「いつからリハビリを始めるべきですか?また、やってはいけない動きはありますか?」
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→ 特に急性期は、動かすことで悪化させるリスクがあるため、自己流の運動を始める前に、必ず医師と理学療法士の指示を仰ぎましょう。
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正確な診断と、病態に応じた適切な治療方針を持つことが、四十肩を克服するための最短ルートです。次回のブログでは、痛みが落ち着いてきた慢性期において、動きを取り戻すための「リハビリテーションの重要性」に焦点を当てて解説していきます。







