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第8回:自分でできること(セルフケア編)。やってはいけない運動、やるべき呼吸法

はじめに:そのストレッチ、逆効果かもしれません

「背中が辛いから、毎日お風呂上がりにYoutubeで見た『背筋運動』をやっています」 「ヨガ教室に通って、一生懸命体をねじっています」

もしあなたが良かれと思ってこれらを行っているなら、少しだけストップしてください。 一般的なトレーニングやストレッチは、あくまで「左右対称の体」を前提に作られています。

側弯症という「左右非対称」な体を持つあなたが、何も考えずに左右同じ動きを繰り返すと、すでに強い筋肉(盛り上がっている側)ばかりがより鍛えられ、弱い筋肉との差が広がり、かえって歪みを助長してしまうリスクがあるのです。

今回は、側弯症の患者さんが「絶対にやってはいけないこと」と、「これだけはやってほしいこと」を明確にします。

1. 側弯症の人が「やってはいけない」3つのこと

まずは、悪化を防ぐための「禁止事項」から確認しましょう。

  • × 無理な「背筋運動(スーパーマンのポーズ)」 うつ伏せで両手足を高く上げる運動は、背中の筋肉を強く収縮させます。側弯症の方は、すでに背中(特に凸側)が過緊張状態にあります。ここでさらに筋肉を縮める運動をすると、カーブの内側(凹側)の圧迫が強まり、痛みが悪化することがあります。

  • × 勢い任せの「体幹ひねり」 ラジオ体操のような、勢いをつけて体を左右にブンブンねじる運動は危険です。背骨の関節がロックされている状態で無理にねじると、動かない胸椎の代わりに腰椎が過剰に動きすぎ、腰痛の原因になります。

  • × 自分でボキボキ鳴らすこと 首や腰をひねって「ボキッ」と鳴らすとスッキリしますよね。しかし、あれは関節が緩い部分が鳴っているだけで、本当に固まっている悪い部分は動いていません。繰り返すと関節がグラグラになり、不安定さが増してしまいます。

2. 最強のセルフケアは「エロンゲーション(軸の伸長)」

では、何をすればいいのでしょうか? 側弯症のケアにおいて、世界的に最も重要視されている概念があります。それが「エロンゲーション(Elongation)」、日本語で言うと「軸を伸ばすこと」です。

側弯症の体は、重力によって上から押しつぶされ、横に飛び出しています。 これを改善する唯一の方法は、「重力に逆らって、頭頂部を天井に向かって引き上げる」ことです。

これだけで、潰れていた椎間板にスペースが生まれ、神経の圧迫が減ります。曲げるのでも、反らすのでもなく、「ただひたすら上に伸びる」。これが基本にして奥義です。

【実践! エロンゲーション・ストレッチ】

  1. 足を肩幅に開いて立ちます(座っていてもOK)。

  2. 両手を頭の上で組み、手のひらを天井に向けます。

  3. 息を吸いながら、手のひらで天井を押し上げるように、グーッと上に伸びます。

  4. この時、「背骨の骨と骨の間を1ミリずつ広げる」ようなイメージを持ちます。

  5. 限界まで伸びたら、息を吐きながら手はそのままで、肩の力だけストンと抜きます。これを5回繰り返します。

これなら左右差に関係なく、安全に背骨をリセットできます。デスクワークの合間にもぜひ行ってください。

3. 「呼吸」で背中を内側から広げる

次に、第6回でも触れた「肋骨の変形」に対するケアです。 側弯症特有のメソッドに「シュロス法」という有名な運動療法がありますが、その核心にあるのは「呼吸によって、凹んでいる側の胸郭を広げる」という考え方です。

潰れて動きにくくなっている側の肋骨に、空気という「内圧」をかけることで、内側からストレッチをかけるのです。

【実践! 側弯症のための呼吸法】

  1. 鏡を見て、自分の肋骨が「凹んでいる方(背中が平らな方)」を確認します。(※一般的に右側弯なら左の脇腹あたり、左腰のカーブなら右腰あたりです)

  2. その「凹んでいる場所」に、自分の手を当てます。

  3. 目を閉じて、鼻から深く息を吸います。

  4. この時、「当てた手を、吸った空気の力で内側から押し返す」ように意識して空気を送り込みます。

  5. 口からゆっくり息を吐ききります。

最初は難しいですが、慣れてくると「あ、今ここに空気が入った」と分かるようになります。これはマッサージでは届かない、肋骨の内側への最高のアプローチです。

4. ぶら下がり健康法は有効か?

「ぶら下がり健康器はどうですか?」ともよく聞かれます。 結論から言うと、「腕や肩に痛みがなければ、非常に有効」です。

自分の体重を使って、強力に「エロンゲーション(縦方向への牽引)」ができるからです。 ただし、全力でぶら下がると握力が持たないので、足が床に着く高さで、膝を曲げて体重をかける程度(体重の半分くらい)から始めてください。 朝晩30秒ぶら下がるだけで、背骨の詰まりがリセットされ、身長が縮むのを防ぐ効果が期待できます。

まとめ:地味なことほど、効果がある

紹介したケアは、どれも地味で、「やった感」が少ないかもしれません。 しかし、側弯症の体に必要なのは、汗をかくような激しい筋トレではありません。

  • 重力で縮んだ背骨を、縦に伸ばすこと。

  • 呼吸で、固まった肋骨を広げること。

この2つを日常に組み込むだけで、あなたの体は確実に変わります。 「痛くない範囲で」「気持ちいいと感じる範囲で」続けることが、何よりの薬です。

次回予告:寝ている時間を味方につける

日中のケアについてお話ししましたが、人生の3分の1は「睡眠時間」です。 寝ている時の姿勢や環境が悪ければ、せっかくのセルフケアも台無しになってしまいます。

  • 「枕は何を使えばいいの?」

  • 「マットレスは硬い方がいい? 柔らかい方がいい?」

  • 「仰向けと横向き、どっちで寝るべき?」

次回は、これら生活環境の疑問を一掃します。 第9回「生活習慣の見直し。寝具選び、座り方、バッグの持ち方」で、24時間体制で体を守る環境を作りましょう。

 

※ご相談はこちらからお気軽になさってください。

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